運家宝尽きなし日本の文化
 東北では昔、家を建てるときはオンコ(イチイ)、ヤマクワ、ホオノキ、ツキ(ケヤキ)、ヤマナシを使った。「運も家宝も尽きない」ようにと言う意味である。

 ゴロ合わせだけではない、イチイ(一位)は名の由来通り床の間の柱に適し、杢の綺麗なヤマ桑は雷を防ぐと言われ、ホオノキはコタツの櫓や障子ふすまの桟、ケヤキはその強靱さから桁、梁、柱に使われ、ヤマナシは炉ブチ材としては粘りと堅さ、火に強く珍重された。

  梓は百木の長(王)

 皇太子殿下、浩宮様「お印“梓”」は百木の長(王)と言われる「キササゲ」である。
 

インターネットで「皇室のお印」を検索すると現皇太子殿下浩宮様のお印は「梓 ”アズサ ”」=「ミズメ(ヨグソミネバリ)」である。
さて広辞苑、日本語大辞典、大辞林による樹木「アズサ」を調べると「ヨグソミネバリ(夜糞峰榛)とキササゲの別称であるなと記載されている。一方「ミズメ」をひくとヨグソミネバリの別名とあり、どの辞典にも載っている。すると「キササゲ」と「ミズメ」と「ヨグソミネバリ」は同じ木と言うことになるが、植物分類学上「キササゲはノウゼンカズラ科」、「ミズメはカバノキ科」の違いがある。
皇室の「お印」は私たちがハンカチに印すイニシャルのようなものだが大事な象徴にもなる。「アズサ 」は「ミズメ」すなわちヨグソミネバリであるはずがない。だが現在の辞典を調べると当然間違った結末になる。
結論を言うと皇室でお選びになった「梓 “あずさ ”の「お印」は「キササゲ(百木の長(王)と言われる)の木」である。その証拠は、皇太子殿下と妃殿下雅子様のご結婚十周年記念硬貨の台紙には「キササゲの花」と雅子様のお印「ハマナスの花」が印されている。キササゲの花とミズメの花は全く違い(写真)、一目瞭然である。写真左がキササゲの花、隣がミズメ(ヨグソミネバリ)の花序で記念コイン台紙と比べていただければれば違いがわかる。。

参考「梓という樹木名」の時代を舞った解釈を考える。
古書を見ると、和漢三才図会(中国明代の図解書に日本の事物を加えたもの)や本草綱目(中国の代表的な本草”薬草などを記した書”)に「梓」について記載されたものを、日本で解釈を付け加えるうちに、用途や葉の形、薬効など似たような樹木が混同してしまってはいないか?たとえば、弓つながり「梓巫女“あずさみこ”の儀式」に使われた「梓弓」。源為朝が使ったと言われる強弓の「梓弓」のほか、儀式ではイチイ(一位と書く…アイヌ民族は実用にも使用・それほど強い)、実用的ではないがマユミ(檀・真弓)も、モンゴルではイタヤカエデ(板屋楓にヤギの健を巻き使用)やヤマクワ(山桑)などが使われ、儀式と実用性の違いによって最適の木に「あずさ木」と名付けたのではではないか。
現在、岩手県岩泉町や久慈市の旧山形村などではオノオレカンバ(斧折れ樺:カバノキ科・堅く重く水に沈む)のことを「アンサ(又はアンチャ)」と言う。全国的には、旧下野日光地方で「ホンアズサ」、ミネバリ(旧常陸久慈郡、下野日光)、ヤマダテ(旧陸中水澤)などと言われる。
アンサ(斧折れ樺・・私はこれを本梓と呼んでいた)は多用途であり、ミズメと共通の用途が多く、ホンアズサの別名もあるように「アズサ」と名がつく木は特別な趣きのある材を意味することに思える。
ミズメ(国有林ではヨグソ・・・は使わず)も重く硬く芯材は水に沈み木目も似る。どちらも現在、希少種と言ってよい(オノオレカンバは北海道及び本州の日本海側に自生せず、北限は岩手県〜青森の一部と言われる)。ミズメの内樹皮は「サロメチール」に似る臭がある。オノオレカンバの鋸屑は非常に苦辛い。昔からトゲの有る木、臭いの強い木、などは厄除け魔除けと信じられてきた。薬になる木、雷を防ぐと伝われるキササゲやヤマグワ、これらが重要な時のはざまで交錯し「あずさ木」の名で扱われてきたと考える。
国を象徴する名前には品格が重要
現天皇継宮様お印「榮」(エイ)は青桐ともいわれ、木々(国)が栄える意味もあり、品位を感じる。キササゲと桐の木は葉が似ている。ヤマギリ(奥山の桐)古木の葉は小さくなり、ハリギリ(本草綱目では刺楸:ハリヒサギとも言う)の葉に形状大きさがそっくり。キササゲはクワ(桑の木)やキリ(桐の木)の杢目が似ており、ハリギリ(刺桐)、ケヤキ(欅・槻)にも杢(板の紋様)は似る。キササゲの材は前記樹種の特質を感じさせ、振動にも強そうで、ケヤキやクリ(栗の木)、センノキ(センノ木:ハリギリの別名)などと組めば桁柱の震動を吸収し地震に強い家屋ができると考えられる。百木の長(王)という由来はこのあたりにも有りそうだが、要は日本の象徴としてふさわしい「お印」かどうかが問題なのだ。『梓"アズサ"木』の呼称は暮らしや時々の物事特性で用途に合うよう木々に「あずさ」の衣を着せて反りを合わせたものであろう。
いずれにせよ「キササゲ」と「ミズメ」は全く植物分類上の「科」が違う。皇太子殿下浩宮様のお印「梓 “あずさ ”」は「百木の長(王)キササゲであることは植物学に優れた昭和天皇の意中に沿ったものであったと容易に解釈される。